PC-9801E/FとPC-8801MKIIが発売されると同時期1983年に、高解像グラフィックスを特徴としたPC-100シリーズが発売された。京セラがOEMしたパソコンで、同じく京セラが設計したPC-8801MKIIと部品関係(FDDやキーボード等)やデザインで類似性が見られるのも特徴だ。
グラフィックスは720×512ドットの解像度を持ち、専用モニターは縦置き・横置きのどちらでも使用できる点が特徴的だ。
また、日本語ワープロソフトや表計算ソフト、ゲームソフトなど、アプリケーションソフトを多数バンドルしており、本体マニュアルよりもソフトウェアのマニュアルの方が多いのに驚くことだろう。
2016年(平成28年)9月13日に国立科学博物館は、PC-100を未来技術遺産第00222号に登録している。
このパソコンは、PC-9800シリーズではないが、本サイトではここに含めて解説する。
NEC PC-100シリーズ

- CPU
μPD8086-2(8086互換)7MHz - ALU
8087実装可能(本体基板にソケットを実装) - IOP
8089実装可能(本体基板にソケットを実装) - ROM
32KB標準装備(ブート、診断プログラム、キャラクター、フォント、BIOS) - BASIC
N100-BASIC(MS-DOS上で稼動) - メインRAM
128KB。最大768KB(256KBまたは512KB単位で増設可) - VRAM
128KB標準装備。カラーボード(増設VRAM 128KB×3プレーン)により最大512KB
model 10,20:カラーボード・オプション
model 30:カラーボード・標準搭載 - 画面解像度
■ディスプレイ横置き時
テキスト
英数カナ表示:80文字×25行、90文字×25行、90文字×32行、120文字×64行
日本語表示:80文字×25行、90文字×25行
グラフィックス:720×512ドット(VRAM空間上は1024×1024ドット)
■ディスプレイ縦置き時
英数カナ表示:64文字×45行、85文字×45行、85文字×90行
テキスト(日本語表示):64文字×45行
グラフィックス:512×720ドット(RAM空間上は1024×1024ドット) - 画面表示色
model 10,20:モノクロ表示(カラーボード搭載時512色中16色指定可)
model 30:512色中16色指定可 - 漢字表示
文字構成16×16ドット
JIS第1水準漢字2,965字、非漢字約700種 - FDD
5.25インチ2D(両面倍密度:360KB)
※FDDは、PC-8801mkII以降に用いられていたものと同一の5.25インチ2Dドライブ(TEACのFD55B)であるが、MS-DOSのFAT12フォーマットを用いたため、フォーマット後の容量は360KBとなった。
model 10:1台(1台増設可)
model 20,30:2台
FDC:μPD765AC - HDD
PC-98H33、PC-98H31を接続可能(HDD I/Fボード経由) - キーボード
(スカルプチャータイプ) JIS標準配列準拠、テンキー、コントロールキー、5ファンクションキー、キャピタルロック可、HELP、COPYキー。
セパレートタイプ(本体とカールケーブルにより接続) - マウス
標準装備。
キーボード接続方式、マイクロソフトマウス
割り込み
μPD8259A(エッジトリガー方式) - CRT出力
RGBアナログ信号出力 - プリンタI/F
パラレルインタフェース。セントロニクス仕様に準拠 - シリアルI/F
RS-232C規格に準拠、1チャンネル(150〜19200BPS) - 汎用I/Oスロット
72PINボード用スロット(縦差し式。本体カバーを外して装着)
カラー使用時:2スロット(1スロットをカラーボードで占有)
モノクロ使用時:3スロット - 電源
AC100V±10%、50/60Hz - 使用条件
10~30℃,20~80%(但し結露しないこと) - 外形寸法
本体:(W)400×(H)350×(D)100㎜
キーボード:(W)408×(H)195×(D)35㎜ - 重量
PC-10010:9kg
PC-10020:10kg
キーボード:1.4kg - 発売
1983/10
マイクロソフトのMS-DOS Ver.2.01を標準OSとして同梱し、VISUAL COMMAND INTERFACE(VISUAL SHELL、通称VSHELL)と呼ばれるマウスオペレーションによるGUIシェルプログラムを搭載して、各種アプリケーションもこれらの環境で動作させることを前提として操作体系を極力統一する方針で設計されている。
PC-100シリーズラインナップ
- PC-100 model10(PC-10010)(モノクロ画面)
2DのFDD1基(PC-10000-11で増設可)
398,000円 - PC-100model20(PC-10020)(モノクロ画面)
2DのFDD2基
448,000円 - PC-100model30(PC-10030)(カラー画面)
2DのFDD2基
558,000円 - PC-MD651 専用モノクロディスプレイ
59,800円 - PC-KD651 専用カラーCRT
198,000円 - PC-10000-03 カラーボード
128KB×3バンク、512色中16色指定、パレット機能
148,000円 - PC-10000-05 増設RAMボード
256KB、ディプスイッチにより任意のバンクセレクト可
86,000円 - PC-10000-08 5インチ固定ディスクインタフェースボード
PC-98H33、PC-98H31接続用
23,000円 - PC-10000-29 ユニバーサルボード
コモンバス用
4,800円 - PC-10000-11 増設フロッピーディスクドライブ
model10(PC-10010)用
60,000円
標準添付のソフトが豊富
このパソコンの特徴は、ソフトウェアがいろいろとバンドルされていることだろう。N88-DISK BASICで作成されたプログラムをN100-BASICのプログラムに変換する「FILCON」を搭載し、従来の8ビット機用ソフトウェアをPC-100で活用できるようにした。これは、DISK-BASICのファイルフォーマットをサポートしているため、DISK-BASICで作成したファイルから直接MS-DOS形式のファイルに変換可能である。またラインエディタである「EDLIN」の他に、スクリーンエディタとして「MS-NOTEPAD」が付属した。後の一太郎およびATOKに連なる日本語ワードプロセッサ「JS-WORD」 およびFEP(日本語変換システム)「KTIS」の他、表計算ソフト「Multiplan(Microsoft Excelの前身)」や「ロードランナー(ゲーム)」などが添付されている。しかし、せっかくグラフィックスが当時としては画期的だったのに、グラフィックツールが添付されていなかったのは意外だった。
このパソコンでは、ROM-BASICは搭載しておらず、MS-DOS上で稼働するN100-BASICがFDで添付されている。
マニアの間ではMS-DOS互換環境/CGマシンとして使われた
デザインは内蔵ディスクドライブ(FDD)が横並びになっていて、PC-8801MKIIとよく似ている。model10ではFDD1台、model20/30ではFDD2台搭載している。キーボードはPC-8801MKIIと同じもので、大きなファンクションキーが5個並んでいいる。また、マウスを標準添付している。
一時期はPC-100をCG用(および、2DのFDDを2DDにアップグレード、HDDも内蔵)にカスタマイズしたものを、サードパーティーからシステム販売されていた事もあったようだ。
マニアたちは、PC-9801用のMS-DOS(2.11や3.10等)をPC-100で動作させるためのパッチなどを作成し、CPUの8086を ピン互換のV30に換装して高速化、FDDを5インチ2DDに乗せ替える等した上で、PC-9801用のバンクメモリカードを用いてメモリをフル増設し、さらにSASIやSCSIなどのI/Fを増設してHDDまで接続し、もっぱらMS-DOS互換環境として使っていた。
市販ソフトこそほとんど供給されなかったものの、MS-DOSジェネリックなソフトは当時の市場やパソコン通信などの世界にありふれており、また特にフリーソフトやPDSの一部にはPC-100対応版やPC-100対応モード等が専用に用意されるものや、未対応 の一部のアプリケーションについてもPC-9801用のバイナリにパッチを当てて流用する手段が提供されるなど、PC-100をMS-DOS互換環境として扱う限り大きく不足を感じる要素は無かった、といった事情もあった。
当時PC-100のビットマップグラフィックスの機能は画期的なものであり、マウスを駆使して優れたCG作品を書き上げていたという話もあった。
NECは全く熱意を見せなかった
当時としては先進的な機能を盛り込んだために、model30と専用カラーディスプレイ、プリンターのセットでは、実に100万円近い高価格で、それ故に熱心に販売されることはなく、普及にも繋がらなかった。
また、内蔵FDDの容量は2DとPC-8800シリーズと同じで、16ビットの8086搭載機としてはアンバランスだった。同時期に発売されたPC-9801Fモデルは2DDのFD搭載機である。
正確にはいつ頃まで販売されていたのかは不明だが、1985年頃には同時発色数の増加、ライトペンインタフェースの搭載、2HD FDDの搭載などかなりの手直しが必要な状況になっていた。
寸評:NECが全く熱意を見せないマシン
結論
京セラのOEMパソコンであり、同じ京セラがデザインを担当したPC-8801MKIIとどことなく似ていた。NEC社内では主導権争いになっていたのはPC-9800シリーズとN5200シリーズで、PC-100はOEM開発ということもあるのか、NECは全く熱意を見せなかった。最終的にPC-9800シリーズがパソコン市場を席巻したのは読者各位もご存じの通りである。