「すべてを受け継ぎながら、すべてが新しい。」
PC-8801は、NECの代表8ビット機で、PC-8801MKIISRとして1985年1月にモデルチェンジされた。実際にはMKIIとは名ばかりで、本来はMKIIIというべきものだった。
従来のソフト/ハードの互換性を保つためのV1モードと、V1モードの高速化モードであるV1-Hモード、新機能を搭載したV2モードに分かれるが、BASIC-ROMは1個で共用するため、一部に動かないソフトもある。Oh!PCで連載されたSS88は訂正版を入れないとV1モードでは動作しない。
NECの8ビット機では事実上の標準機となり、PC-9801でいえばVMのようなマシンだった。
PC-8801MKIISRスペック
- CPU
メインCPU:μPD780C-1(Z-80Aコンパチ、4MHz)
サブCPU:μPD780C-1(ディスクコントロール、4MHz) - ROM
メインROM:N-BASICおよびモニタ 32KB、N88-BASIC 64KB
サブROM:ディスク・コントロール用:2KB - RAM
メインRAM:64KB※スロット内増設可能(32KB単位でバンク切り替え)
テキストエリア:32KB
変数・ワークエリア・テキストVRAM:31KB
VRAM:48KB
テキストVRAM:4KB(ハイスピードモード時のみ使用)
サブRAM:ディスク入出力用バッファ・ワークエリア 16KB - テキスト表示
80文字×25行、80文字×20行、40文字×25行、40文字×20行
※いずれかを選択可
文字及びグラフィック記号(248種)
キャラクタ単位にアトリビュート設定可。リバース、ブリンク、シークレット、カラー8色(黒、青、赤、マゼンタ、緑、シアン、黄、白)。 - カラーグラフィックス表示
640×200ドット1画面
512色中8色(アナログRGBディスプレイ使用時)※V2モード動作時
8色(デジタルRGBディスプレイ使用時)
※ドット単位に指定可 - モノクログラフィックス表示
640×400ドット1画面(専用高解像度ディスプレイ使用時)
640×200ドット3画面
※いずれかの画面を選択 - 画面合成
可(グラフィックス画面にテキスト画面の上が来る) - バックグラウンドカラー
512色中1色指定可(アナログRGBディスプレイ使用時)※V2モード動作時
8色中1色指定可(デジタルRGBディスプレイ使用時) - 漢字表示標準装備
JIS第一水準漢字2965種,非漢字約700種
JIS第2水準漢字はオプション
画面構成:40文字×20行
文字構成:16×16ドット
※グラフィックス画面に表示 - CRT
RGBセパレート出力(TTLインタフェース、カラー)
アナログRGB出力(75Ωアナログインタフェース、カラー)
コンポジットビデオ信号出力(輝度変調、モノクロ)
家庭用TVに接続可(TVアダプタ経由またはアナログRGBインタフェース) - キーボード
(スカルプチャータイプ) JIS標準配列準拠、テンキー、コントロールキー、5ファンクションキー、キャピタルロック可、HELP、COPY、キー。
セパレートタイプ(本体とカールケーブルにより接続) - サウンド
FM音源3和音(各音ごとに49種の音色指定可)
SSG音源3和音(GI社PSGコンパチブル)
スピーカー内蔵、LINE OUT端子付 - FDD
2D(両面倍密度。320KB)仕様を内蔵可(最大2台)
model10:なし(内蔵可)
model20:1台内蔵済み
model30:2台内蔵済み
※model10のみ外付けFDD使用可(インタフェースボード別売) - プリンタI/F
パラレルI/F、セントロニクス社仕様準拠 - シリアルI/F
RS203C仕様準拠。割り込み/ポーリング制御可 - 汎用I/O
入力4ビット、出力1ビット、入出力2ビット。アタリ規格のジョイスティック接続可。 - 拡張スロット
3個あり(PC-8012/13、PC-8801、PC-8001MKII上位コンパチブル) - CMT(カセット)I/F
内蔵(300ボー/1200ボー切り換え式) - ライトペン接続
モノクロディスプレイ端子に接続可 - カレンダ時計
月、日、時、分、秒。NiCd電池でバックアップ - 電源
AC100V±10%、50/60Hz - 消費電力
平均54W(model30)、最大90W - 使用条件
10~30℃,20~80%(但し結露しないこと) - 外寸法
本体:350(W)×345(D)×125(H)㎜
キーボード:412(W)×195(D)×32(H)㎜ - 重量
本体model30:9.2kg
キーボード:1.4kg - 主な添付品
キーボード、電源ケーブル、ユーザーズマニュアル、リファレンスマニュアル、リファレンスブック、お客様登録カード、保証書他 - 本体価格
model10:168,000円
model20:213,000円
model30:258,000円 - 発売
1985年2月
PC-8801MKIISRラインナップ
- PC-8801MKIISRmodel10
2DのFDD2台内蔵可
168,000円 - PC-8801MKIISRmodel20
2DのFDD1台内蔵(最大2台)
213,000円 - PC-8801MKIISRmodel30
2DのFDD2台内蔵
258,000円
サウンド関係の新製品
- PC-8801-11(サウンドボード)
初代機/MKIIで使用できるサウンドボード。FM音源3音/SSG音源3音の計6重和音8オクターブの音源が利用可能。
※MKIISR以降の機種でもI/Oポートが異なるので内蔵FM音源との併用でき、BASICの拡張命令(ボードに添付)により、内蔵FM音源と合わせて8オクターブ6重和音の演奏が可能。
※PC-8801-23/24と同時に使用することはできません。
価格:19,800円 - PC-8801-23(サウンドボード2)
1987/11に発売されたPC-8801MA/FAと同等のサウンド機能を実現するためのボード。
FM音源6音、リズム音源6音のステレオ12音源とSSG音源3和音による音楽演奏が可能。ADPCMによるデジタルサンプリング機能も装備。
※PC-8801-11と同時使用はできません。
発売:1987/10
価格:39,800円
ホビー性が大幅に強化された
モデルチェンジの特徴は、前機種では低速で有名だったグラフィックスはALUの搭載、サイクルスチールの採用により大幅な高速化が図られ、アナログCRT接続時512色中8色表示が可能となったこと、そして当時流行していたFM音源が搭載されたことだ。旧型のPC-8801MKIIと比べると大幅に機能アップされており、PC-8801/PC-8801MK2ユーザーにとってはMKIISRは悪夢の瞬間だったと揶揄されることもある。本当はこちらにスーパーインポーズ機能を搭載した方が良かったのだが、1986年にオプションが用意された。
旧型機からのソフト資産が多数あったので、かなり売り上げは好調だった。買い換えユーザーの他、新規ユーザーからの需要もあった。
旧型機のPC-8801初代機やPC-8801MKIIのユーザーにとってはSRショックともいわれる悪夢の瞬間だったと言う人もある。
なお、外付けFDDはmodel10のみ利用可で、インタフェースボードは別売。
PC-8001MKIISRとの比較
FDDを接続するには接続ケーブルも必要。また、漢字ROMはオプション。
- PC-8001MKIISR:108,000円
- PC-80S31(2DのFDD2基):168,000円
- PC-80S31用ケーブルPC-8098:7,500円
- システムディスク:PC-8037SR-2W:7,000円
合計:291,000円
これに漢字ROMを搭載した場合
- 漢字ROMボードPC-8001mk2-01:32,000円
合計:323,000円
PC-8801MKIISRに組み込みFDDを搭載した場合
※モデル30は標準搭載で258,000円
- PC-8801SR-FD1組み込み専用FDD:55,000円
- システムディスクPC-8837-2W:7,000円 ※モデル20・30には標準添付。
モデル10に搭載した場合
- 本体+FDD2台+システムディスク合計285,000円
モデル20に搭載した場合
- 本体+FDD1台合計268,000円
このように比較してみると、PC-8001MKIISRを本体価格の安さで買った人はFDDが欲しくなったときに後悔する仕掛けになっている。NECはユーザーを一体なんだと思っているのか、再び問いかけたい。パソコン設計者はユーザーが遅かれ早かれFDDを使うようになることは分かり切っているはずだろう。その上model10/20を買ったユーザーには組み込み専用のFDD(1ドライブあたり55,000円)が用意されていて、PC-8001MKIISR用のFDDより安く買えるということになっているのだ。おまけに提供されるオプションやソフトも圧倒的にPC-8801MKIISRの方が豊富という状況だった。結果的に、PC-8001MKIISRが、NECのPCを買わせるためのおとりとなるような商法はやめてもらいたいという厳しい見方をする向きもあったのだ(「よいパソコン悪いパソコン」の本)。
NECの8ビット機はPC-8801MKIIオンリーへと進んだ
この後まもなくPC-9801を不動の地位にするPC-9801VMが登場するが、8ビット機は事実上このPC-8801MKIISRがベースとなる。これは、LSIやICなど集積回路技術の急激な進歩により、8ビット機全体が目に見えて低価格化していくこととも関連しており、1年も経たない1985年11月にはFRとMRという低価格機が出て来ることとなった。
Oh!PCでは4つのSRと題した特集も組まれたが、このラインアップは短期間で終わった。
似たような傾向は富士通のFMシリーズにも見られ、FM-77L2をベースにAV指向としたFM77AVが発売されたのは同じ1985年11月であり、内蔵FDDの値段を考慮するとFM-NEW7と同じ価格(99,800円)であり、8ビット機全体の価格が目に見えて下がっていく傾向が出てきた。
寸評:1980年代8ビット機の標準機